第2章 模 様

 門墩には沢山の模様が彫られています。
 この模様は彫刻として美しいだけでなく、四合院の住人の願望や趣向が読み取れて楽しいものです。

 

第1節 模様の絵解き

 これからしばらくこの模様の絵解きを紹介します。

 まず、クイズです。
 どの模様が次のどの言葉を表しているのでしょう?
「歳々平安」「事々如意」「福在眼前」「子孫繁栄」「九世同居(一族仲良く)」 

  画像1:太鼓の上に父親獅子、その前で三匹の子獅子が遊んでいます。反対側
    の門墩には母親獅子と四匹の子獅子が彫られています。
  画像2:四角い穴の開いた古銅銭に帯が通され、その帯を蝙蝠が銜えています。
  画像3:大きな蝶々の前に瓜が二つ、各々の瓜に小さな蝶が止まっています。
  画像4:如意棒に柿の実が二つ帯で結び付けられています。
  画像5:稗の穂が二本瓶に挿し込まれ、瓶の側に一羽の鶉がいます。

                                                     (画像をクリックして 大きくなりますヨ)

【ヒント】
 漢字は一つの発音から多くの文字を思い出せます。
 例えば日本語でも“キ”⇔木:気:貴:喜:亀:鬼:旗:棋:碁:希:祈:騎:黄……。
 漢字のこの特性を使って模様を絵解きします。(この場合の発音は当然中国語発音です。日本語の発音ではありません。)

 

クイズの正解は以下の通りです。 

  「九世同居」

 中国語では“獅”はshiと発音し、“世”も同じ                     shiと発音します。この門墩には左右あわせて                    親獅子二匹子獅子七匹=合計九匹彫られ                       ています。中国では九は究極を意味する目出                       度い数です。
 従ってこの図柄は「九世同居」一族仲良くや
一族繁栄などを表す吉祥図です。
    画像:北京大学西北門の抱鼓有獅子型門墩

  「福在眼前」

 古銭に開いた四角い穴を“銭眼” qianyanと言います。蝙蝠はbianfuと言います。fuは“福”、qianyanは“前眼”です。
 そこでこの図柄は「福は目前にある。」の吉祥図なのです。
 また、蝙蝠が逆さまに成っているのは“倒蝙蝠” で、倒=dao=到で、“到蝙蝠=到福”(福が来る)の吉祥図です。
   画像:西城区馬良胡同1号 箱子型門墩

  「子孫繁栄」

 瓜は生えた時は小さいが、その後蔓は絶える事無くどんどん伸び、多くの実が出来ます。
 従って瓜の図は子孫繁栄・万事発展の吉祥図です。
 小瓜を表す中国語“瓞”はdieと発音し、蝶も同じ発音なので、この図には三匹の蝶が彫られています。
    画像:東城区帽儿胡同5号の

             抱鼓型の太鼓の正面

  「事々如意」

 柿はshiで、事もshiと発音します。柿の実二つに如意棒を添えて、物事が全て思い通りに成る事を表す吉祥図です。
 如意棒と柿の実を結んでいる帯が翻っているのは“翻帯”と言い、中国では“好事不断”を意味するので、装飾意匠として門墩では大変よく使用されます。
      
画像:西城区王府倉胡同17号の
                  箱子型門墩の側面

  「歳々平安」

 稗や稲の様な穂をsuiと言います。歳もsuiと発音します。
 瓶=ping,平もpingと読み、うずらは鵪鶉=anchun と言いan=安に通じます。
 従ってこの図は歳歳平安を表す吉祥図なのです。
     画像:西城区西四北三条39号の

                箱子型門墩の正面

クイズ第二問

どの模様が次のどの言葉を表しているでしょう?
 「五福捧寿」(幸せに長寿を全うする)
 「六合同春」(天下泰平)
 「翎頂如意」(官位が最上位まで思う様に昇りつめる)
 「封侯掛印」(昇進)
 「發   財」(富豪になる)

   画像1:瓶に珊瑚・孔雀の尾の羽根・如意棒が挿し込まれ、如意棒には古代
       の石の打楽器が吊るされています。
   画像2:壽の字を五匹の蝙蝠が支えています。
   画像3:二匹の猿が官印を松の枝に吊るそうとし、そばを蜂が飛んでいます。
   画像4:白菜が見事になっています。
   画像5:松ノ木の下に飛来した鶴を霊芝を銜えた鹿が返り見ています。

正解は以下の通りです。


  「翎頂如意」

 清朝では帽子の飾りが官位を示す物の一つです。
 帽子の頂上を珊瑚で飾り孔雀の尾の羽根を三本挿せるのは最高位官位の者だけです。
 三角の石の打楽器は磬=qingと言い、慶と同じ発音です。
 従ってこの図は官位が最高まで順調に登りつく吉祥模様です。
     画像:西城区千竿胡同5号の

               箱子型門墩の内側

  「五福捧寿」

 こうもりは蝙蝠=bianfuと発音し、蝠=fu=福です。五匹の蝙蝠は健康・美徳・富裕・幸福・長寿を表します。まさに幸せに長寿を全うする吉祥図です。
   画像:西城区北草廠胡同12号

               の抱鼓型門墩

  「封侯掛印」

 蜂=feng=封、猴=hou=侯で、封侯とは帝王から侯爵などの高い位を授かる事を言います。猿がその官印を木の枝に掛けている図で、昇進を表す吉祥図です。
    画像:西城区藕芽胡同7号の

            箱子型門墩の正面 

  「發  財」

 白菜はbaicaiと読み、中国語で金持ちになることを意味するfacai=發財と良く似ているので富豪になるとの吉祥図なのです。
   画2:西城区西新簾子45号の

             抱鼓型門墩の内側

  「六合同春」

 鹿はluと読み、六=liuと良く似ています。鶴はheと読み、合もheと読みます。
 鹿鶴=六合です。中国では東西南北の四方と天地の二方をあわせて六合と言い、天下を意味します。
 松の下に長寿の象徴の鹿と鶴が寄っている図は天下泰平をあらわす吉祥図なのです。
 この門墩の周囲に彫られている連続模様は清朝では満族の貴族しか使用できなかったそうです。
       画像:北京語言大学「枕石園」内の

                                                                    箱子型門墩の側面                               

クイズ第三問

どの模様が次のどの言葉を表しているでしょう?
  「一路連科」(官僚登用試験“科挙”に順調に合格する。)
  「三陽開泰」(一切の事は良い方に進む。)
  「連々有余」 (毎年裕福)
  「福 禄 寿」
  「吉慶如意」

    画像1:“ひつじ”が三匹彫られています。
    画像2:桃の実が付いた枝を銜えた“こうもり”を下から鹿が仰ぎ見ています。
    画像3:蓮池に一羽の鷺が居ます。
    画像4:古代の武器と如意棒に古代の石の打楽器が翻帯で結び付けてあり

        ます。
    画像5:門墩の台座は一匹の魚が泳いでいる蓮池に生えた蓮の葉で、上の丸

        い部分は開いた蓮の花です。

クイズ第三問の正解は以下の通りです。

  「三陽開泰」

 羊はyangと読み、陽もyangです。中国には一切の事が良い方に進む“三陽已生、否極泰来”と言う言葉があります。
 三匹の羊を彫った模様はこの吉祥図なのです。
   画像:東城区東四十三条80号の門墩の

                       右側正面

  「福 禄 寿」

 蝙蝠は福です。鹿はluと読み、古代中国の官僚の給料だった禄もluと言います。また仙人の西王母は仙桃を食べて不老不死の身になったと言い伝えられており、桃は長寿の象徴です。
 この図はお金に不自由なく長生きする幸せな吉祥図です。
   画像:西城区金絲胡同35号の門墩の正面

  「一路連科」

 鷺はluと読み、路も同じです。“はす”は蓮と書きlianと読み又荷とも書きheと読みます。連もlianと読み、科挙の科はkeと読みheに大変近い読みです。
 一匹の鷺が蓮の側に居るこの図は、地方試験から始まって最後の紫禁城で皇帝の前で行われる殿試までを、順調に一気に合格する吉祥図です。
         画像:西城区頭髪胡同55号の門墩の正面

  「吉慶如意」

 古代の武器“戟”はjiと読み、吉も同じです。古代の石の打楽器“磬”はqingと読み、慶も同じ読みです。そこへ如意棒が添えられています。
 従ってこの図は慶事が思うままに手に入る吉祥図です。
     画像:崇文区得豊西巷55号の門墩の正面

  「連々有余」

 蓮はlianと読み、連も同じです。魚はyuと読み、余も同じです。
 蓮の花と葉がありその下を魚が泳いでいるこの図は余裕が何時までも続くと言う吉祥図です。
    画像:東城区永恒胡同の路上に放置されていた。
        現在は北京語言大学枕石園に展示されて

       います。


 前回までは漢字が一字一音節で、一つの発音が多くの文字を思い出させる漢字の特性を利用した絵解きでした。
 今回以降は、中国の永い歴史の中で培われた伝承や信仰を利用した絵解きの例を紹介します。

  「登竜門」

 下の鯉の口から出た雲の中に龍が現れています。
 黄河の急流を遡った鯉は龍になれると言う日本でも有名な伝承で、昇進を象徴する吉祥図です。 
   画像:西城区小絨綫胡同28号の箱子型門墩の正面

  「劉海戯金蟾」(顔が磨耗し表情はわからない。)

 古銭を通した紐を持った子が足元に居る三本足の蟾(がまがえる)と遊んでいます。
①裕福で子沢山の吉祥図
 古銭は裕福の象徴。蟾は子沢山の象徴とされています。
②財源が枯渇せず、何時までも豊かである吉祥図。
 昔、燕の国の劉守光に仕える劉元英(号は海蟾子)の所へ、或る時行者が来て、十個の卵と十枚のお金を求めました。劉元英が求めに応じて卵とお金を渡すと、行者はそれらを台の上に置いたら、お金は見る見る増えて塔の様に高くなった。そして倒れそうになり海蟾子は思わず「危ない!」と叫んだ。行者はそれを見て「人は栄華を極めている時がこれと同じで危険な時ですよ。」言って、お金を二つに分けてそのまま行ってしまった。海蟾子はこれを見て悟るところがあり、その後行者の言うところに従って名所旧跡を漫遊して時を過ごした。《湖広総誌》に書かれた話。
   画像:西城区西長安街西松樹胡同45号の抱鼓型門墩の内側

  「白猿偸桃」

 昔、雲蒙山に大変親孝行な白猿がいた。母猿が病気になり、白猿は母親に桃を食べさせたくて、仙桃園に盗みに入った。番人の孫臏に捕まえられたが、孫臏は事情を聞いて白猿の孝行心に免じて見逃してやった。桃を食べ母親は元気になり、白猿はお礼に孫臏に一冊の兵法書を送った。
 この言い伝えを受けて、「白猿偸桃」は長寿を願う吉祥図。又親孝行を願う図でもあります。
      画像:西城区新文化街211号の抱鼓型門墩の錦鋪部分

  「麒麟吐玉書」

 孔子が産まれた時、麒麟が庭に降りて来て、口の中から一冊の玉書を吐出したと言われています。
 この図は文運昌盛・学業成就・天下泰平の吉祥図なのです。
      画像:西城区西四北七条27号の

                     箱子型門墩の正面

  「並蒂同心」

  蓮は一本の根から花と葉が生えています。このことから蓮の花と葉を彫った図は夫婦相愛の吉祥図なのです。
       画像:宣武区余家胡同21号の

                   箱子型門墩の正面

  「琴と碁盤」

 「琴棋書画」は教養人や君子がたしなむ芸とされており、文化人・教養人の象徴。
  画像4:西城区前沙路胡同の路上に

     あった箱子型門墩の左右の正面
       現在は北京語言大学構内

     枕石園に展示

  「博古模様」

 銅炉や鼎などの古い道具類を描いた図。
北宋時代に復古調の気風が流行り、その後教養人や宦官の家の飾りに使用されるようになりました。
  画像:西城区東煤胡同13号の箱子型門墩の正面

  「連生貴子」

 男の子が蓮の花を持っている。
 昔は男子が生まれ家系が続く事が良いとされ男の子の誕生を願った。男の子が続いて誕生し、子孫繁栄の吉祥図です。
  画像:崇文区草廠二条20号の箱子型門墩の正面

  「福寿三多」

 立派な籠の中に向かって右から仏手柑・桃・石榴が盛られています。
 仏手柑は福・桃は長寿・石榴は子沢山の象徴です。
 彫刻の技も素晴らしい芸術品です。
   画像:東城区紗路胡同33号の箱子型門墩の正面

  「暗八仙」
 不老長寿の願望の強かった中国では修行を積み、不老不死を得た仙人への憧れは大変強く、中でも次の八人の仙人は有名です。
 八人は各々特有の持物を持っており、その持物でその仙人を象徴するのを“暗八仙”と言います。
    李拐鉄“瓢箪”  張果老“幽鼓”  鐘離権“宝扇” 

    呂洞賓“宝剣”  藍采和“花籠”  韓湘子“竹笛” 

    何仙姑“蓮花”  曹国舅“拍板”

   画像1:李拐鉄の“瓢箪”    宣武区炭儿胡同40号
     画像2:張果老の“幽鼓”    西城区西斜街54号  
       画像3:鐘離権の“宝扇”    宣武区前青廠胡同48号
         画像4:呂洞賓の“宝剣”    西城区西斜街54号
           画像5:藍采和の“花籠”    宣武区綿花上六条12号
   画像6:韓湘子の“竹笛”    東城区交道口北三条71号
     画像7:何仙姑の“蓮花”    東城区香餌胡同10号
       画像8:曹国舅の“拍板”    西城区文華胡同31号

 

 

  「八宝吉祥図」
 ラマ教では宝傘・勝利幢・宝瓶・金魚(又は二匹の魚)・蓮花・左巻法螺貝・吉祥結・法輪の八つはそれぞれ釈迦仏の八つの器官を表す図とされています。
 例えば頭部は宝傘・身体は勝利幢・両眼は金魚・声は左巻法螺貝です。
 清朝期はラマ教が盛んだったので、八宝吉祥図を彫った門墩が沢山あります。

第2節 模様の番外

   画像1:勝利幢                  西城区西長安街高碑胡同31号
   画像2:二匹の魚               崇文区草廠九条17号
   画像3:法輪左巻法螺貝   東城区九道湾東巷3号
   画像4:吉祥結                  東城区演楽胡同81号
   画像5:宝 瓶                   東城区九道湾東巷3号

 

望みを文字で直接門礅に彫り込んだ物もあります。

  画像1:喜   東城区香餌胡同67号

  画像2:○寧 東城区菊儿胡同51号

  画像3:福     東城区菊儿胡同51号 

  画像4:壽   東城区香餌胡同87号  

  画像5:祥   宣武区長椿樹胡同48号

  画像6:福壽 宣武区儲子営胡同49号

  画像7:双全 宣武区儲子営胡同49号

 門墩の表面に彫られた模様の全てから住人の趣向が読み取れるとは限りません。
     

  美しい抽象模様を紹介します。

  画像1:この世のものとは思えない美しい花模様
                      西城区西新簾子胡同42号の門墩の外側

  画像2:熨斗と思われる模様
                         東城区飛龍胡同49号の門墩内側

  画像3:連続模様 主に満州族が愛用した模様
                          東城区東板橋東巷12号の門墩の内側

  画像4:連続卍模様 

       門墩全体に彫られている
                        西城区大石作胡同47号の門墩の正面

  画像5:“漢紋”と呼ばれる連続模様  

       漢民族が愛用した模様なのでしょう?
                            宣武区后鉄廠胡同7号の門墩の正面

                                                    (画像をクリックして 大きくなりますヨ)

 

 左右対称模様を紹介します。

    画像1:宣武区小寺街29号
    画像2:西城区正覚胡同1号
    画像3:西城区官門口頭条11号
    画像4:崇文区南官園胡同36号
    画像5:東城区船坂胡同65号

 

 出来ばえの素晴らしい箱子型門墩を紹介します。

 画像1:葡萄 (西城区辛勤胡同27号の正面) 
      実が沢山なるので豊穣の象徴としてよく使用されています。   
      栗鼠が一緒に描かれる場合が多いです。
       
 画像2:牡丹  (東城区香餌胡同64号の正面)
      植物の代表として見事にデザインされた牡丹です。
      植物では菊、梅、海棠、朝顔、霊芝、菖蒲、竹、松、桐など多くの

     植物が彫られています。
 
 画像3:梅に鶯 (宣武区綿花上六条10号の正面) 
      日本にもなじみの迎春の吉祥図。
    

 画像4:牡丹に鳳凰  (東城区月光胡同19号の正面)
      花の王牡丹と鳥の王鳳凰 
      富貴の象徴?
      
 画像5:水面から雲が湧き上に“月”が浮かんでいます。
      反対側の門墩では雲の上に“日”が浮かんでいます。
      何を象徴しているのか私には分かりません。
            (宣武区朱家胡同10号の正面)

 

  画像6:瑞雲

      箱子全体が瑞雲と大変珍しいです。

            (宣武区北大吉巷47号の正面)

 

 無彫飾の箱子型門墩を紹介します。

 模様が彫られていない門墩でも堂々と貫禄を備えた物もあります。

  画像1:西城区東中胡同33号の門
      模様が彫られていない箱子型門墩を備えていますが立派な四合院です。
  画像2:崇文区崇文門西川沿186号の門墩
  画像3:宣武区梁家園東胡同10号の門墩
  画像4:東城区遂安伯胡同77号の門墩
  画像5:西城区辟才四条9号の門墩

 

 獅子型と抱鼓型の中の秀作を紹介します。

 獅子型門墩  (東城区東四七条67号)
 以前は近くの東城区大方家胡同の大邸宅の門で見かけた物です。どんな事情でここに有るのか??
 獅子を乗せた基座が錦鋪を被せた須弥座=北京式でなく、簡素な箱なのでかなり古い物と推測します。

松樹下見返り麒麟 (西城区新文化街135号)
 この図柄は抱鼓型だけでなく箱子型門墩にも良く使われている図です。どんな意味を持つのか外国人には良くわかりません。
 大変大きい門墩です。高さ85cm

想像上の花“宝相花”  (宣武区北大吉巷20号)
 抱鼓型門墩の正面でよく見かける宝相華です。どんな意味の吉祥図かわかりません。

「獅滾繍球」 (西城区前細瓦胡同11号)
  繍球を二匹の獅子が弄んでいる図です。子孫繁栄・事々如意・好事在后頭などの吉祥模様で、抱鼓型は勿論箱子型門墩にも大変良く彫られています。 
  (参考:獅=shi=嗣・獅=shi=事)

滝つぼに仙人? (元西城区能仁胡同9号)
 北京では自然の風景を取上げた図はほとんど見かけません。大変珍しい図ですが、箱子型にも時折見かけます。何かの吉祥図なのでしょう。
 (現在は西城区西四北三条29号の収集家の収蔵品)

基座が大変美しい
(宣武区余家胡同33号)

 

 第3節 模様の番外 獣吻(ショウウエン)

 抱鼓型門墩は“太鼓の上に獅子が蹲踞している有獅子”と “太鼓の上に龍の子が彫られている有獣吻頭”との二種類が有ります。

 鼓の上の獣頭は龍の子の一つ“獣吻(ショウウエンshouwen)”の頭である事を説明します。

 中国には“龍生九子”という言い伝えがあります。
 明代の書籍《菽園雑記》陸容著に以下の記述があります。
 「龍は多くの子を生んだがそれらは龍にはならず、それぞれ異なった特徴を持ったものに成長した。
 例えば亀に似た贔屓(ビシbixi)は重い物を背負うのを好むので石碑の台座になっている。(参照;画像3)
 又小さい龍に似た徒労(トゥラオtulao)は鳴くのが好きで釣鐘の吊手になっている。
 獅子に似た獣吻(ショウウエンshouwen)は邪気を好んで食べるので門環(門扉の取手)になっている。」

 門墩に彫られた獅子に似た頭には二本の角が生えています。(参照;画像4と5)即ちこの動物も獣吻なのです。
 邪気を好んで食べるので門の両側に有る門墩の上に置かれているのです。
           
 尚、《菽園雑記》には殺すのが好きで刀の柄になったもの・訴訟が好きで獄門の上にいるもの・水が好きで橋のアーチの留石になったもの・煙が好きで香炉の蓋の摘みになったもの・風雨が好きで屋根の棟の両端に置かれたもの等十四匹の龍の子が列挙されています。

      画像1:抱鼓型有獅子門墩     西城区轆轤把胡同19号
    画像2:抱鼓型有獣吻頭門墩   西城区宝産胡同23号
    画像3:石碑を支えている贔屓(ビシbixi)
                         北京語言大学キャンバス内
    画像4:獣吻の頭部の角      東城区水磨胡同甲1号
    画像5:獣吻の頭部の角      崇文区好景胡同22号     

                                      第2章 模様 終